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連載:地球温暖化の「今」と21世紀

地球温暖化の今と21世紀(36)

2019/5/9

「パリ協定長期戦略(案)」を診る

今年もまた、世界は異常気象に襲われています。
例えば、1月18日。オーストラリアとロシアの気温差は100℃を超えました。
一方で、記録的な熱波。また一方では、記録的な寒波。どちらも気候変動が影響していることに、疑いはありません。

地球上の気温:1月18日

そんな中、政府は「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)」(以下「パリ協定長期戦略(案)」)を公表しました。
4月23日のことです。

パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案) https://www.env.go.jp/press/files/jp/111420.pdf

この政府案は、大阪で開かれる「G20」(6月)までに正式決定され、パリ協定を実践する日本の方針として国連に提出されます。
果たして、世界の期待に応える内容となっているのでしょうか?
その特徴を、筆者なりにまとめてみたいと思います。

「1.5℃特別報告書」の実現に貢献する

パリ協定長期戦略(案)」は、その冒頭でIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年10月に採択した「1.5℃特別報告書」を、次のように紹介しています。

・・・気候変動に関連するリスクは、1.5℃の地球温暖化において増加し、2℃においては更に増加すると予測されている。地球温暖化を1.5℃に抑えるには、人為起源二酸化炭素(CO2)排出量が2050年前後に正味ゼロに達すると予測されている。

これ(「1.5℃目標」を示す:筆者)は世界全体で追求すべき極めて難易度の高いものではあるが、我が国としても国際社会の一員として、パリ協定に掲げられたこの努力目標の実現にも貢献するため、長期戦略を策定し、その実施を通じて得た成果を共有することにより世界に貢献していく。

パリ協定長期戦略(案)」は、こうした位置づけで作られたと理解できます。
では、具体的なCO2削減目標はどうなっているのでしょう?
これまでの政府の方針を見直し、「1.5℃特別報告書」を実践するにふさわしいものになっているのでしょうか?

以前と同じで、引き上げることのない「削減目標」

ところが今回の政府案では、パリ協定で提出した時と変わらない「削減目標」が以下のように明記されているのです。

我が国は、2015年に提出した約束草案(自国が決定する貢献)において、2013年度の目標として、・・・(略)・・・実行可能な削減目標(ターゲット)を示した。

・・・2050年までに80%の温室効果ガスの削減という長期目標を掲げており、その実現に向けて、大胆に施策に取り組む。

簡潔に言うと、次のようになります。

 *2050年までに、80%削減
 *2030年までに、2013年比で26%削減

2015年のパリ協定の時に各国から提出された「国別目標」を合わせても、今世紀末には気温が3℃も上昇してしまうと指摘されています。パリ協定からすでに3年以上が経っているにもかかわらず、当時と同じ目標を掲げているのです。
「1.5℃」どころか「3℃」の上昇を追認する目標だと言わざるをえません。

IPCC「1.5℃特別報告」は、早ければ2030年にも、気温上昇が「1.5℃」に達すると警告しました。

早ければ2030年にも、気温上昇が「1.5℃」に達する

そして、「1.5℃」に抑えるために、2050年にはCO2排出を実質ゼロにする必要があると指摘しました。
「実質ゼロ」とは、排出したCO2を、植物などが吸収することで相殺され、その結果「ゼロ」になるというものです。

地球規模で「実質ゼロ」にするには、「先進国」には「途上国」以上の責任がありますから、日本は「排出ゼロ」を目指すことを目標とすべきでしょう。
先ず、「2050年までに80%削減」という目標を変え、「2050年には温室効果ガスの排出をゼロにする」という目標を据えるべきです。
また、「2030年までに、2013年比で26%削減」という短期目標は、すでに失笑を買ってきた「実績」があります。
「2013年度比で26%削減」という目標は、「1990年比」にすると・・・18%。先進国では最低レベルなのです。
さらに、「2030年目標=26%」のままでは、日本の掲げている「2050年目標=80%」の達成さえ不可能なことは、歴然としています。下のグラフをご覧下さい。

日本の2030年目標

2030年目標=26%」という数値は、それまで世界に示していた目標値をダウンさせたものです。これまでに、目標を下げた国は、なんと世界で唯一日本だけです。この点でも、日本は世界の「笑い者」なのです。

IPCCは「2030年の世界の排出量を、2010年比で45%にする必要がある」と指摘しています。
少なくとも、IPCCの指摘を前提にした短期目標を掲げるべきでしょう。

石炭火力発電を擁護する政府案

このように、世界中から失笑を買うような「目標値」が掲げられたのは、石炭による火力発電を擁護しているからです。
政府案では、石炭火力発電の廃止は謳われていません。

実は、今回の政府案は、「パリ協定長期成長戦略懇談会」が4月2日に出した「提言」を元にしています。
この「懇談会」の過程では、座長から「今後、原則として、(石炭火発に)公的資金の投入、公的支援は行わない」という方針が掲げられていたのです。しかし、この座長案に財界が反発し、「火力発電への依存度を可能な限り引き下げる」という記述になったと報道されています。
世界が石炭から撤退し、「脱炭素化」を強化しているのに、いまだに石炭に未練を残している国は珍しいのです。
世界の「笑い者」どころか、温暖化の「加害者」の役割をヒートアップさせることにもなりかねません。

原発を「安定的に進めていく」?

もう一つ重大なことは、この政府案に原発が積極的に取り上げられたことです。

低廉かつ安定的な電力供給や地球温暖化といった長期的な課題に対応していくことが求められるところ、国民からの社会的な信頼を獲得し、安全確保を大前提に、原子力の利用を安定的に進めていくためにも・・・(略)・・・総合的かつ責任ある取組を進めていくことが必要である。

2011年の原発事故が、「安全神話」を宣伝することによってもたらされたことは、記憶に新しいところです。
また、一旦事故を起こすと、その被害の空間的、時間的な広がりがどれだけ大きいか、被災地や避難者の方々の犠牲で嫌と言うほど思い知らされている筈です。

それなのに、またもや「安全確保を大前提に」と軽々しくも謳っているのです。
原子力に「安全確保」が可能なのでしょうか?
しかも、「温暖化対策」という大義をかざしてのもの。二重に国民を愚弄するものだと言わざるをえません。

今回の「パリ協定長期戦略(案)」は、どう見ても是認できるものではありません。
歯止めを失くしつつある気候変動に対して、せめて「1.5℃」に抑えるための必死の取組が必要です。
同時に、原発のない安心して暮らせる社会を作ることも不可欠なことです。

今回の「パリ協定長期戦略(案)」が正式決定され、国連に提出されれば、日本はますます世界の「環境後進国」になります。昨秋から全世界に広がった若者達の声にも反することになります。
子どもや孫の世代に責任をとるためにも、「パリ協定長期戦略(案)」は見直されるべきです。

(文責:副理事長 吉田)

 
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